『風立ちぬ』

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 評判もよく、また宮崎駿の最後の作品ということで観に行きました。
 もっともこの監督、今までもたびたび引退宣言を出していましたので、また再開されるかもしれませんけど。
 果たして、評判通りの見事な仕上がりの作品で、最後まで堪能することができました。

 堀越二郎という戦前から戦後にかけて活躍した飛行機界では高名な名技術者の半生記です。
 昭和初期に三菱航空機で技術力が高い飛行機を開発し、ついには九六式を完成させる実話がメインですが、これに婚約者を結核で失うという堀辰雄の「風立ちぬ」の悲恋(フィクション)を絡ませた作品です。
 おそらく、"堀越二郎"の飛行機の開発話だけでは男臭いだけの無骨な物語になってしまうので、話に華を添えるために"堀辰雄"を織り交ぜる構成にしたのでしょう。
 なお、献辞が捧げられた二人の姓が類似していて同世代であることから、てっきり兄弟と勘違いしていましたが、まったくの他人だそうです。

 よく見るとこの二つの話、直接かみ合っていません。飛行機の設計譚と恋愛は直接交わるところがないからです。
 2つのストーリーは並行に進行し、ただ1点主人公の直属の上司が仲人を務めたところだけが交叉しています。

 ロマンのきっかけは軽井沢の高級ホテルで出遭ったという設定ですが、時期としては時局が切迫している昭和初期です。
 戦闘機の設計技師となるとこのような時期は開発や設計に忙殺され、休みさえまともに取れないはずでしょう。にもかかわらず、別荘地でのんびりと高等遊民のような生活をしているというのもヘンなものではないでしょうか。
 しかしながらこのからみが観ていてまったくといっていいほど不自然に感じられないのは、やはり手腕というべきでしょうか。
 おそらく、あらかじめ夢の中でイタリアのカプローニ伯爵と邂逅するシーンなどファンタジックな要素を取り入れたのも伏線になっているのでしょう。

 結局のところこの話は2つの挫折を描いた作品といえるでしょう。
 一つは最愛の妻を亡くしたことと、もう一つはせっかく設計した飛行機も戦争の材料に使われそしてその戦争も惨敗に終わってしまうことです。
 もっとも戦争には敗れたとはいえ、設計で培った航空技術は受け継がれ、戦後の復興や高度成長の牽引力になっていきますけど。
 そういう意味からは、本質的には深い無常観をたたえた作品といえます。たとえば北野武監督が演出したら、もっとそういう点が強調されたかもしれませんけど。

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